農地における盛土規制法ガイド:最新情報と注意点

2024.7.25

 

2021年の静岡県熱海市土石流災害をはじめ、近年各地で違法盛土による崩落の被害が問題視されています。

それを受け、従来の宅地造成等規制法が改正され、2023年5月26日に「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」が施行され、農地における盛土・切土、土砂の仮置きも規制対象となりました。

 

ここでは、盛土規制法に基づく農地での規制内容、必要な手続き、そして注意点について分かりやすくご案内します。

 

1. 規制区域

盛土規制法では、都道府県などが以下の2つの規制区域を指定することができます。

 

  • 宅地造成等工事規制区域:盛土などや土砂の仮置きに伴い、災害発生のおそれが高い市街地などの区域。工事の許可が必要。
  • 特定盛土等規制区域:宅地造成等工事規制区域以外の区域で、自然的・社会的条件から、盛土などや土砂の仮置きが行われた場合、災害により他の区域の居住者などの生命・身体に危害を生じるおそれが特に高い区域。通常は工事の届出のみだが、工事内容によっては許可が必要。
盛土規制法による規制区域(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから抜粋)
盛土規制法による規制区域(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから抜粋)

関東地方の規制区域指定状況

令和6年4月1日時点で、関東地方では規制区域が指定されていません。

しかし、今後、指定される予定ですので、最新情報に注意が必要です。

 

※規制区域が指定されるまでは、これまでの宅地造成等規制法によって規制されます。

 

※規制区域に指定される前に、すでに工事に着手している場合は、指定から21日以内に、都道府県に届出が必要です。

2.宅地造成等規制区域における工事の許可

宅地造成等工事規制区域で行われる盛土などや土砂の仮置きの工事には、原則、都道府県の許可が必要です。

2-1.許可対象工事

許可が必要な工事は、以下の工事です。

 

盛土などの工事

  1. 盛土によって、高さ1mを超える崖(※)ができるもの
  2. 切土によって、高さ2mを超える崖(※)ができるもの
  3. 上記1と2以外の盛土と切土によって、高さ2mを超える崖(※)ができるもの
  4. 上記1と3以外の盛土によって、高さ2mを超えるもの(崖ができないもの)
  5. 上記1~4以外で、盛土や切土をする土地の面積が500㎡を超えるもの

※崖とは、その地表面が水平面に対して30度を超える角度のもので、硬岩盤以外のもの

①
③
⑤
②
④

許可対象工事(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから加工)


盛土・切土の例

  • 宅地を造成するための盛土・切土
  • 残土処分場における盛土・切土
  • 太陽光発電施設の設置のための盛土・切土

土砂の仮置きの工事

  1. 高さが2mを超え、土地の面積が300㎡を超えるもの
  2. 上記1以外で、土地の面積が500㎡を超えるもの

※条例によって、規制の基準が異なることがあり得ます。

①
②

許可対象工事(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから加工)

土砂の仮置きの例

  • 土砂のストックヤードにおける仮置き

2-2.許可の要件

以下のすべての要件を満たすことが必要です。

  • 周辺住民への説明会の開催などによる周知をすること
  • 工事の技術的基準を満たすこと
  • 工事主(※)に必要な資力と信用があること
  • 工事施工者に必要なの能力があること
  • 工事区域内の土地の地権者すべての同意を得ていること

※工事主・・・工事の請負契約の注文者、または請負契約をしないで自らその工事をする者

2-3.許可後の流れ(盛土・切土)

盛土・切土の許可後は次の順に推移します。

  1. 許可
  2. 工事開始・完了
  3. 検査の申請
  4. 検査済証の受領

盛土・切土の工事中に行うこと

現場に標識の掲示、中間検査(※1)、定期報告(※2)

 

※1 工事内容によっては、工程の都度中間検査が必要で、合格しなければ次の工程に進めません。 ※2 一定規模以上の工事の場合は、定期報告が必要です。

2-4.許可後の流れ(土砂の仮置き)

土砂の仮置きの許可後は次の順に推移します。

  1. 許可
  2. 工事開始・完了(撤去)
  3. 確認の申請
  4. 確認済証の受領

土砂の仮置きの工事中に行うこと

現場に標識の掲示、定期報告(※1)

 

※1 一定規模以上の工事の場合は、定期報告が必要です。

2-5.許可の公表

許可がされた場合は、都道府県などが許可地の場所や工事内容を公表します。

3.特定盛土等規制区域における工事の許可

特定盛土等規制区域において、上記の「2.宅地造成等規制区域における工事の許可」の図で示した工事をするときは、届出のみで問題ありません。

 

ただし、以下の工事をするときには、許可が必要です。

※条例によって、規制対象の工事の規模が厳しくなることがあります。

 

盛土などの工事

  1. 盛土によって、高さ2mを超える崖(※)ができるもの
  2. 切土によって、高さ5mを超える崖(※)ができるもの
  3. 上記1と2以外の盛土と切土によって、高さ5mを超える崖(※)ができるもの
  4. 上記1と3以外の盛土によって、高さ5mを超えるもの(崖ができないもの)
  5. 上記1~4以外で、盛土や切土をする土地の面積が3000㎡を超えるもの
①
③
⑤
②
④

許可対象工事(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから加工)


土砂の仮置きの工事

  1. 高さが5mを超え、土地の面積が1500㎡を超えるもの
  2. 上記1以外で、土地の面積が3000㎡を超えるもの

※条例によって、規制の基準が異なることがあり得ます。

①
②

許可対象工事(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットから加工)


許可の要件、許可後の流れは、2-2と2-3で説明している内容とおおむね同様です。(詳しくは後述しています。)

 

ただし、特定盛土等規制区域では、許可を受けた工事だけではなく、届出があった工事についても公表されます。

4.注意事項

  • 規制区域に指定された後、建物を建築する目的で開発許可を受けた場合でも、盛土規制法の許可を受けたことになります。その場合であっても、現場での標識の掲示、中間検査、定期報告は必要です。
  • 農地で盛土などや土砂の仮置きをするときは、農地転用(農地法第4条許可または農地法第5条許可)の手続きも必要です。

5.管理者などの責任、罰則

規制区域内の土地の所有者・管理者・占有者は、盛土などや土砂の仮置きによって災害が発生しないように、常に安全な状態を維持する責任がありますので、心掛けてください。

 

また、無許可で盛土などや土砂の仮置きを行ったり、行政からの命令に違反した場合は、罰則があります。

罰則:懲役3年以下、罰金1000万円以下

6.農地における盛土規制法の対象外の行為

通常の営農活動は、土地の形や質を維持する行為であることから、災害の危険性を増大させないため、盛土規制法の対象とはなりません。

 

通常の営農活動の例

  • 通常の生産活動
  • ほ場管理のための軽微な土盛り・土取り:耕起、代かき、整地、畝立、けい畔の新設・補修・除去など。ただし、作業の前後で土地の地盤面の高低差が、都道府県などが定めた値を超えないこと
  • 暗きょ排水の新設・改修

 

一方で、以下の行為は規制対象です。

  • ほ場の大区画化・均平
  • 田畑転換
  • 農業用施設の整備

 

農地でしようとしている行為が、通常の営農活動に含まれるかどうかは、役所の担当部署に相談することをおすすめします。

7.まとめ

盛土規制法に基づく農地における規制内容、必要な手続きを以下の表にまとめました。

区域 行為 届出工事 許可工事 中間検査 定期報告 完了検査
宅地造成等工事規制区域 盛土切土

①盛土で高さ1m超の崖

②切土で高さ2m超の崖

③盛土切土を同時で、高さ2m超の崖(①②除く)

④盛土で高さ2m超(①③除く)

⑤盛土切土の面積500㎡超(①~④除く)

①盛土で高さ2m超の崖

②切土で高さ5m超の崖

③盛土切土を同時で、高さ5m超の崖(①②除く)

④盛土で高さ5m超(①③除く)

⑤盛土切土の面積3000㎡超(①~④除く)
同左 許可対象全て
土砂の仮置き

①仮置きの高さ2m超で面積300㎡超

②仮置きの面積500㎡超

①仮置きの高さ5m超で面積1500㎡超

②仮置きの面積3000㎡超
許可対象全て
特定盛土等規制区域 盛土切土

①盛土で高さ1m超の崖

②切土で高さ2m超の崖

③盛土切土を同時で、高さ2m超の崖(①②除く)

④盛土で高さ2m超(①③除く)

⑤盛土切土の面積500㎡超(①~④除く)

①盛土で高さ2m超の崖

②切土で高さ5m超の崖

③盛土切土を同時で、高さ5m超の崖(①②除く)

④盛土で高さ5m超(①③除く)

⑤盛土切土の面積3000㎡超(①~④除く)
許可対象全て 許可対象全て 許可対象全て
土砂の仮置き

①仮置きの高さ2m超で面積300㎡超

②仮置きの面積500㎡超

①仮置きの高さ5m超で面積1500㎡超

②仮置きの面積3000㎡超
許可対象全て 許可対象全て

(国土交通省・農林水産省・林野庁のパンフレットを参考に作成)

以上のとおり、農地における盛土規制法による規制についてご案内しました。

 

農地転用や、特別な営農活動をしようとしているときは、本ページを参考にしていただき、ぜひ注意してください。