相続した農地、どうすれば?国庫帰属制度で解決

2024.9.24

 

昨今、誰が所有者なのか分からない土地(所有者不明土地)が増えています。

所有者不明土地は、管理されず放置されていることから、周辺環境や治安の悪化を引き起こしたり、防災や開発の妨げとなっています。

 

これは農地でも同様で、相続登記がされていない、またはされないおそれがある農地は、全農地の2割であり、そのうち6%(57,000ha)が遊休農地です。

所有者不明農地では、周辺農地での耕作にも悪影響があり、また農業の担い手に農地が集積・集約されにくくなるという影響もあります。

 

所有者不明土地を増やさない対策の一つとして、相続土地国庫帰属制度が2023年4月27日から始まりました。

この制度は、土地所有者から国が土地を引き取り、管理をしていく制度です。

土地所有者がこの制度を利用すれば、利用予定のない土地を管理する際の負担から解放されます。

 

ここでは、相続土地国庫帰属制度の仕組みや手続きについて、主に農地に焦点を当ててご案内します。

相続した農地の管理をどうすればいいか悩んでいる方は、せひご一読ください。

 

1.相続土地国庫帰属制度の背景

近年、人口減少・高齢化によって、土地を利用したいというニーズが、特に地方では低下してきていると言われています。

 

このようなことから、相続をした土地に対して、利用する予定がないにもかかわらず、費用や手間(固定資産税の支払いや建物の取り壊し費用、草刈り、いつ事故が起こるか分からない心労など)をかけて管理するようになり、所有者は強い負担を感じて、手放したいと考える人が増加していると言われています。

 

そして、このような社会の変化が、所有者不明土地を発生させる要因となって、土地の管理不全(農地の場合は、耕作放棄されて、草が繁茂し、虫や動物のすみかになるなど)を引き起こしていると指摘されています。

 

そこで、所有者不明土地の発生を抑えて、土地の管理不全を防ぐために、相続などで取得した土地を手放し、国に帰属させることをできるようにした仕組み、「相続土地国庫帰属制度」がつくられました。

2.相続土地国庫帰属制度のポイントと審査の流れ

この制度のポイントは以下のとおりです。

  1. 相続などによって、土地の所有権や持分を取得した者が、その土地を国に帰属させるように承認の申請ができる。
  2. 審査は、法務局の職員が行う。
  3. 土地が、管理や処分に多くの費用がかからないと判断されたら、国への帰属が承認される。
  4. 申請の承認がされた人が、負担金を国に収めた時点で、土地が国に帰属する。

※上記2と3より、土地の管理や処分に多くの費用がかからないということを、申請する側が証明する必要はないため、申請する側の負担が少ないと考えられます。

 

審査の流れは下図のとおりです。

相続土地国庫帰属制度の流れ
相続土地国庫帰属制度の流れ

3.制度を利用できる人

この制度は、土地所有者であれば誰でも利用できるということではなく、下記に該当する人が利用できます。

  • 相続や遺贈(相続人に対する遺贈のみ)によって、土地を取得した者
  • 土地が共有状態の場合は、相続や遺贈によって持分を取得した人がいれば、その全員

※つまり、土地が共有状態の場合、自らは持分を購入することで取得したけれども、共有者のうち1人でも相続や遺贈によって持分を取得した人がいれば、自らもこの制度を利用することができます。なお、個人だけではなく、法人(農地所有適格法人)であっても利用できます。

4.制度を利用できない土地

すべての土地を国に帰属させることはできず、管理コストなどを考慮して、制度を利用できない土地の要件が定められています。

4-1.土地の状況による要件

以下の表のいずれかに該当する場合は、申請段階で直ちに却下される土地です。

申請段階で直ちに却下される土地 説明
建物が建っている土地  
担保権や使用収益権が設定されている土地 抵当権や地上権、地役権、賃借権などが設定されている土地です。
他人が使用することが予定されている土地 土地所有者以外の者が使用していて、今後もその使用が予定されている土地です。※1
特定有害物質によって汚染されている土地  
境界や所有権に争いがある土地  隣地の土地所有者との間で土地の境界が争われていたり、申請した土地の所有者以外にその所有権を主張する者がいるなどしている土地です。※2

※1 具体的には次の土地ですが、土地の一部であっても以下のように利用されていれば該当します。

  • 現在、通路として利用されている土地 
  • 墓地の土地 
  • 境内の土地 
  • 現在、水道用地、用悪水路、ため池として利用されている土地

 

※2 承認の申請をするにあたって、あらかじめ測量をする必要はなく、申請者自身が認識している境界を図面に記したり、実際に境界となる部分に杭などの目印をつけておけばよいです。

4-2.管理・処分にかかる費用・労力による要件

以下の表のいずれかに該当する場合は、審査を経て不承認となる土地です。

審査を経て不承認となる土地 説明
崖があって、管理に過大な費用・労力が必要な土地 崖は、勾配が30度以上で、高さが5m以上のものです。
土地の管理・処分の邪魔になる工作物、車両、樹木などが地上にある土地 ※1
除去しないと土地の管理・処分をすることができない物が地下にある土地 ※2
隣接する土地の所有者と争わなければ、管理・処分ができない土地 ※3
管理・処分をするにあたり、過大な費用・労力が必要な土地 ※4 

※1 土地の管理や処分の邪魔になるものは、例えば、以下のようなものが該当します。

  • 果樹園の樹木
  • 民家・公道・線路などのそばにあり、放置すると倒木のおそれがある枯木や、枝の落下などを防止するために定期的な伐採が必要な樹木
  • 放置すると周辺の土地に侵入するおそれや、森林の機能に支障を生じるおそれがあるために定期的な伐採が必要な竹
  • 放置車両
  • 違反転用されて、原状回復の必要があるもの

 

※2 除去しないと土地の管理や処分をすることができないものは、例えば、以下のようなものが該当します。

  • 産業廃棄物
  • 建築資材(いわゆるガラ)
  • 浄化槽
  • 井戸
  • 大きな石

ただし、広い土地の片隅に小規模なものがあるだけであれば、この要件には該当しません。

 

※3 次の土地が該当します。

  1. 袋地などで公道に出られない土地
  2. 第三者によって、所有権が妨害されている土地のことです。

上記2に該当するものは、例えば次のような場合です。

  • 不法占拠者がいる場合
  • 隣地から生活排水が定期的に流れてきて、土地の使用に支障がある場合

 

※4 該当する土地を下表で示します。

  具体例
土砂崩れ・陥没などの災害によって被害が発生し、対策が必要な土地
  • 土砂崩壊の危機がある土地で保護工事が必要な場合
  • 大量の水が漏出している土地で排水ポンプの設置が必要な土地
鳥獣・病害虫が生息する土地で被害が生じる土地 
  • 土地にスズメバチやクマが生息している場合
  • 病害虫が生息していることで、農作物・樹木に被害が生じる場合 
森林整備計画の基準に適合せず、追加の取り組みが必要な土地
  • 間伐の実施ができない場合
法令によって、国が管理費用以外に債務を負担することが確実な土地
  • 近い将来、土地改良事業で金銭が賦課されることが確実な場合
法令によって承認申請者が債務を負担する土地で、土地が国に帰属することによって国が債務を引き継ぐことになる土地
  • 土地改良区の賦課金の支払いをしている場合

審査完了までに、賦課金の支払い債務を消滅させた場合は、該当しなくなります。

相続土地国庫帰属制度を利用できない土地
相続土地国庫帰属制度を利用できない土地

5.申請方法

5‐1.申請方法

申請書と添付書類を窓口に直接提出する方法と、郵送する方法の2種類があります。

 

受付窓口は、申請する土地を管轄する法務局です。

 

申請はご自身で行うことも可能ですが、行政書士・司法書士・弁護士に依頼することもできます。

 

申請する際には、1万4000円の審査手数料が必要です。

ただし、却下や不承認となったとしても、1万4000円は返金されることはありません。

5-2.必要書類

申請をするためには、以下の書類を提出してい行います。

  • 申請書
  • 土地の位置・範囲を明らかにした図面
  • 隣接地との境界を明らかにした写真
  • 土地の形状を明らかにした写真
  • 印鑑証明書
  • (遺贈を受けた場合)相続人が遺贈を受けたことを証明する書類※1
  • (申請者と土地の名義人が異なる場合)土地の名義人から相続があったことを証明する書類※2
  • (任意)固定資産評価証明書
  • (任意)土地の境界に関する資料

 

※1 以下の書類を適宜提出します。

  • 遺言書
  • 亡くなった人の戸籍全部事項証明書・除籍謄本・改製原戸籍謄本
  • 亡くなった人が除かれた住民票
  • 相続人の戸籍一部事項証明書
  • 相続人の住民票

 

※2 以下の書類を適宜提出します。

  • 亡くなった人の戸籍全部事項証明書・除籍謄本・改製原戸籍謄本
  • 亡くなった人が除かれた住民票
  • 相続人の戸籍一部事項証明書
  • 相続人の住民票
  • 遺産分割協議書

5-3.審査期間

申請してから、承認・不承認の結果が出るまでにおよそ8か月かかります。

 

審査は長期間にわたるため、申請者が亡くなることも考えられます。

その場合は、申請した土地を相続した人が、申請手続きを引き継ぐことが可能です。

そのときは、相続があった日から60日以内にその旨の申し出を行う必要があります。

6.負担金

負担金は、土地の性質に応じた10年分の管理費用にあたるものです。

 

申請した土地について、国への帰属が承認されたとき、一度だけ支払うものなので、10年ごとに支払うわけではありません。

 

農地における負担金は、原則20万円です。

 

ただし、次の3つの場合は例外で、以下の表のとおりに面積に応じた金額を支払うことになります。

  • 市街化区域内の農地、用途地域が指定されている地域内の農地
  • 農振農用地区域内の農地
  • 土地改良事業の区域内の農地
面積 負担金額
~250㎡  申請土地面積×1210円/㎡ +20万8000円 250㎡⇒51万円
250㎡超~500㎡ 申請土地面積×850円/㎡ +29万8000円 500㎡⇒72万3000円
500㎡超~1000㎡ 申請土地面積×810円/㎡ +31万8000円 1000㎡⇒112万8000円
1000㎡超~2000㎡ 申請土地面積×740円/㎡ +38万8000円 2000㎡⇒186万8000円
2000㎡超~4000㎡ 申請土地面積×650円/㎡ +56万8000円 4000㎡⇒316万8000円
4000㎡超~ 申請土地面積×640円/㎡ +60万8000円 5000㎡⇒380万8000円

負担金納付の通知が来てから30日以内に納付をすることが必要で、それを過ぎると承認は失効してしまいます。 (失効した場合は、最初から申請をし直さなければいけません。)

 

負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移ります。

7.他の手続きとの比較

相続時に土地を手放す方法として他の手続きとの比較を以下にご案内します。

  相続土地国庫帰属制度 相続放棄 国や自治体への寄附 民間での売買
メリット
  • 1筆ごとに申請(処分)することが可能
  • 国が引き取るため、基準が明確
  • 家庭裁判所での手続き費用が安い
  • 相続人1人で手続きが可能
  • 負担金のような金銭を支払う必要なし
  • 身近な自治体に土地を任せることができる
  • 売買代金を得ることができる
  • 共有状態でも、自分の持ち分のみを売却可能
デメリット 
  • 負担金を支払うことが必要
  • 共有状態の場合、全員で申請する必要あり
  • すべての相続財産を放棄することになる
  • 相続放棄できる期間に制限がある
  • 寄附を受けてもらえる相手を探すことが困難
  • 寄附を受ける基準が国や自治体で異なる
  • 購入相手を探すことが困難 
  • 売買条件を交渉する必要あり

農地を手放すわけではありませんが、賃貸借できる方法があります。

農地バンクを通して賃貸借を行えば、借主が決まるまでの間は農地バンクが管理するため、負担が軽くなります。

 

また、農業委員会に、農地の譲渡や貸借のあっせんを依頼できる可能性があります。

8.まとめ

ここまで、相続土地国庫帰属制度についてご案内しました。

 

管理や処分に多くの費用がかからない土地は、国への帰属が承認されるわけですが、それを申請者が証明する必要はありません。

もし、却下や不承認となっても、手数料の1万4000円がかかるくらいですので、申請を挑戦してみてもよいと思います。

 

相続土地国庫帰属制度でお困りのことがありましたら、遠慮なさらずお問い合わせください。

相続土地国庫帰属制度のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。